JUNK WORLD

■文


本能的なもの、とでも言うのだろうか。
たまに衝動を抑えきれなくなる。






ふざけ






小さな頭に、短く刈った髪の毛。
大きな目はなぜかぎこちなく、あっちを向いたりこっちを見たりと忙しい。
鼻先を子供の喉に押し当てる。
返る体温に、目が眩んだ。

「・・・なぁ、とら」

真っ赤な顔をして、子供が困ったような声を出す。
畳の上でしきりに身をよじるから、がさがさとやかましい。
細い腕を掴んで押さえつける。
鼻を擦り付けて、顎をそらさせれば、子供はくすぐったいと抗議した。
それでも、抵抗は弱い。

「とら、なぁ」

さっきから同じことを何度も繰り返す。
困り果てた真っ赤な顔で、こっちを見る。

何だ、その顔。
やめて欲しいのか?

「やめて欲しくねーんだろ?」

口を吊り上げて笑ってやると、子供の顔が更に赤くなる。
細い体を畳みの上に組み敷いて、体温を確かめるように、何度も顔を擦り付けた。

たまに衝動を抑えきれなくなる。
腹の底にある、本能。

子供の細い腕が、いつの間にか手の中から逃げ出していた。
しばらく何かを躊躇して、じっとこちらを見上げてくる。
わしが何も言わずに少し目を細めると、了解と取ったのか、ようやくわしの毛に触れてきた。
さらさらと感触を確かめるように、子供の小さな掌が頭を、額を撫でる。
子供の熱は高い。
こうして触れるとよりいっそう高くなる。

「なぁ、とら」

わしの毛を梳きながら、子供がまた呼んだ。
応えてやる気も起きなかったので、子供の胸に顔を乗せて、早い心音を聞く。

「とら、なあってば」
「うるせぇな・・・」

ぐ、と毛を握る手に力を込め、痺れを切らしたように子供が大きな声を出す。
顔を上げて上から覗き込めば、一瞬、目を見開いて、それから妙な表情になって黙り込んだ。

何だ、その顔。

「何だよ、テメーが呼んだんだろ」

子供の額にぐりぐりと額を押し付けると、ぎゅっと目をつぶって息を押し殺す。
真っ赤の頬が何かの果実のように見えて、思わず舌を這わせると、驚いたのか子供の肩が跳ねた。

「・・・もっ、・・んだよぉ・・・」

なぜか涙目になって、子供が途切れ途切れに呟いた。
息が熱い。

衝動が、抑えきれなくなる。
今度こそ子供の体を掻き抱いて、思いっきり頭を擦り付ける。
子供が何か悲鳴を上げながら身をよじるが、無視した。
早い心音と、熱い息。
高い温度。

これが欲しい、と、腹の底の本能が言う。

ゆっくり頭を起こせば、子供がじっとこちらを見ていた。
小さな掌が、頬に触れてくる。
ぐりっと擦り寄れば、子供はゆっくりと笑みを浮かべた。

「ははっ、何だよお前!にゃんこみてぇ」

そんな下等動物と同じにするんじゃネェ。

一瞬そんな言葉が口をつきそうになるが、思い止まった。
今日は、気分がいい。
子供の耳に唇を当てる。
びくっと体を硬直させる子供に、最大限の甘い声で。

「にゃぁ」

真っ赤な顔で、固まる子供の目じりには、うっすらと涙がにじんでいる。
このわしを馬鹿にしやがるからだ。

ざまぁみろ。






2010/06/13_うしおととら(悪ふざけ)

大妖怪さまは猫科と信じて疑わなかった昔。
まさかの人類でした。
藤田先生は、いい意味で期待を裏切る達人だ!と思いました。
(話の内容といっこも関係ねぇ!)

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